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神戸地方裁判所 平成4年(行ウ)35号 判決

原告

鈴木一誠

被告

熊谷満

植村義昌

畑俊三

右被告ら訴訟代理人弁護士

酒井隆明

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、篠山町に対し、各一八万七七六二円及びこれに対する被告熊谷満、同畑俊三については平成四年八月二二日から、被告植村義昌については同月二六日から各完済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、被告らが篠山町議会の議会広報の編集委員としてした「ささやま議会だより」の刊行や研修旅行はいずれも違法なものであるから、被告らはこれに関して支出された篠山町の公金を不当に利得したとして、その住民である原告が同町に代位して被告らに対して右不当利得金の返還を求めた住民訴訟である。

一当事者間に争いのない事実

1  被告らは、いずれも篠山町議会議員で、同町議会が発行する「ささやま議会だより」(以下「議会だより」という。)の編集委員の地位にある者である。

被告らは、右議会だより六二、六三、六四号を編集し、それらは平成四年二月二〇日、同年四月二〇日、同年七月二〇日にそれぞれ発行された。

2  また、篠山町議会広報編集委員会は、平成四年五月二〇日から同月二一日にかけて、鳥取県東伯郡北条町への視察研修を行い、被告らは、その編集委員として右研修に参加した。

3  原告は、篠山町の住民として、右議会だよりの発行に関する公金支出について平成四年四月二二日ころに、右視察研修に関する公金支出について同年六月八日に、それぞれ篠山町監査委員に対して監査請求をしたが、いずれも同年七月一八日ころ却下された。

二争点

本件の争点は、(1)被告らが編集した議会だよりが、虚偽の事実や不相当な記事を掲載したもので、公費で出版すべきものでないか否か、(2)被告らが行った視察研修が、温泉地での飲食行為を主たる目的としたもので、不相応に豪勢なものであるか否かである。

第三争点に対する判断

一原告は、篠山町の議会だよりがデタラメな文書として私見や私情を挿入したデマ新聞であり、公報としての責務を果たしておらず、このような新聞は私費で印刷・発行されるべきものであるから、被告らは公金から支出された右議会だより六二、六三、六四号の印刷費を不当に利得したと主張する。

1  原告は、まず、議会だより六四号に掲載された小嶋孝一(以下「小嶋」という。)の「議会傍聴に思う」という記事は、稚拙で同人の錯覚に基づくものであり、また、被告ら編集者がこのような記事を更正せずに掲載したことは同人の名誉を毀損する結果を招来するものであるという。

しかし、原告は、右小嶋の記事について「ボケ丸出し」であるとか、「ネボケタ作文」である等と抽象的に述べているだけで、いかなることからそのように言えるのかにつき具体的に主張・立証をしていない。

さらに、原告は、小嶋が右記事の中で議員の中に「ツッカケ」を履いた者がいると述べているのは虚偽である旨主張している。

しかし、篠山町議会事務局長波々伯部寛は、議員の中に、「ツッカケ」であるか普通の靴の裏を踏んだものであるか確かではないが、いずれにしろそれに近い物を履いていた者がいた状況は目にしているのであるから(証人波々伯部寛の証言)、小嶋が議員のなかに「ツッカケ」を履いた者がいると述べていることをもって虚偽であるとまでは解することができない。

以上の点からすれば、議会だより六四号に掲載された小嶋の記事は、違法・虚偽であるということはできず、この点についての原告の主張は採用することができない。

2  次に、原告は、議会だより六四号に掲載された篠山町議会議員石塚誠一の原告の公共料金着服事件に関する記事が、確認も裏付けもとられていない虚偽のものであると主張する。

しかし、平成四年篠山町議会第二回定例会会議録(〈書証番号略〉)によれば、篠山町議会で原告が集金された公共料金を同町ガス水道課に納入しなかったことが問題とされたことが認められ、原告作成の報償金払戻通知書(〈書証番号略〉)によると、右事実が全くの虚偽であると解することはできない。

これに対し、原告は、右事件に関する記事が虚偽のものであることについて具体的に主張・立証をしない。

したがって、原告の右主張も採用することはできない。

3  さらに、原告は、議会だより六二号に掲載された原告がした「日の丸」や「君が代」についての一般質問についての町長の答弁の欄で、「国旗(日の丸)」と記載されているが、町長は実際に国旗イコール日の丸であるとは述べていないから虚偽の記載であると主張する。

しかし、平成三年篠山町議会第四回定例会会議録(〈書証番号略〉)の一二頁に記載された町長の答弁の欄をみると、「我が国の国旗の認識は広く国民に定着しており、学校教育で「日の丸」を国旗として取扱い…」と述べていることが認められるから、町長がその答弁の中で「日の丸」を日本の国旗として述べているものと読み取ることができる。

したがって、原告の右主張も採用することができない。

4  原告は、そのほか、議会だよりの内容について「デマ新聞」とか「デタラメ」であるとか「ウソを満載」等と主張するが、その主張の内容、根拠等が抽象的であって、具体的にそのように解することができる根拠等について何らの主張や立証をしない。

5 以上により、篠山町の議会だよりは虚偽の事実等が多数掲載されるなど公報たり得ず、このような出版物は私費で発行されるべきであるという原告の主張は理由がない。

二次に、原告は、被告らが参加した篠山町議会広報編集委員の鳥取県東伯郡北条町への視察研修は、同町での研修をわずかしか行わず、視察研修は単なる名目に過ぎず温泉で飲み食いすることを主たる目的としたものであり、しかも不相応に豪勢なものであると主張するので、この点につき判断する。

1  右北条町への視察研修の概要(〈書証番号略〉、証人波々伯部寛の証言)

(1) 篠山町議会には、広報編集委員会のほか、総務文教委員会、民生福祉委員会、産業建設委員会、議会運営委員会があり、従前から各委員会ごとに年一回程度の研修調査を行っている。

広報編集委員会では、鳥取県東伯郡北条町の議会広報が全国コンクールに入選するなど優れていたため、同町の議会広報の編集技術や方法を学び、篠山町の議会だよりをより良いものとするため、北条町へ視察研修に行くこととした。

(2) 右北条町への視察研修には被告らのほか、町会議員九鬼正和、議会事務局長波々伯部寛、議会事務局主幹大対信文が参加して、平成四年五月二〇日午前九時に篠山町を出発し、同日午後一時三〇分から午後四時まで北条町の広報編集委員等と意見交換を行った。

右意見交換では、北条町から「議会だよりの発行回数は年四回、ページ数は平均して二〇から二八ページで、予算決算時は更に増やす。大きさはA四判で大きく見やすくしている。議会の審議状況や活動の実体について広く町民に周知し、理解と協力を求めることを最大の基本としている。平易で読みやすい文体で、要点を簡潔にまとめる。」等の説明を受け、更に編集作業の具体的な方法や写真の取扱い、見出しの取扱い等、広報誌全体にわたっての意見交換を行った。

(3) 被告らは、その日の夜、北条町に適当な宿泊施設がなかったため、同町近くの三朝町の斉木別館に宿泊した。

(4) 被告らは翌日、午前九時三〇分に三朝町を出発し、山陰海岸線を走り帰路についた。

(5) この視察研修に要した費用は、六名合計で宿泊料、昼食二回分、通行料等で二二万〇六五四円で、一人当たり三万六七七六円であった。

2  まず、原告は、北条町で行った研修の時間が二時間三〇分と余りに短く、このように短い研修は単に形式的なもので、本来の目的は三朝温泉での飲食行為にあったと主張する。

しかし、右北条町への視察研修は、正式に篠山町と北条町が連絡を取り合い、広報作成の研修のために行われたものであり、実際に北条町では右1(2)のとおり、広報作成に関する意見交換が行われ、実際に視察研修後に発行された議会だより六四号からは、判型が従来のB五判からA四判に改められたほか、議会傍聴記を新設するという試みもなされているのであるから(〈書証番号略〉)、右視察研修が単なる形式的なものであったということはできない。

3  さらに、原告は、右視察研修中の三朝町の斉木別館での宿泊時に必要以上に豪勢な飲食がなされたと主張する。

しかし、議会広報編集委員会視察公費負担内訳(〈書証番号略〉)によれば、宿泊料は一人当たり二万円以下となるクーポン券により支払われているほか、旅館追加分として計上されている酒、ビール等は四万六三五〇円で、一人当たり七七二五円であり、原告主張のように社会通念を超えるような豪勢な飲食行為があったとまではいえない。

4 以上により、被告らが行った右北条町への視察研修が温泉地での飲食を主たる目的とした不相応に豪勢なものであったとする原告の主張は理由がない。

第四結論

よって、原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないからいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官辻忠雄 裁判官小島正夫 裁判官影浦直人)

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